関東
J.S.A.Webサイト編集:Yuki Hayakawa
7月24(金)東京・銀座にて、マスターオブワインのサミュエル・ハロッブ氏(以降サム)を迎え、「 若きマスターオブワインが追求する自然派ワインとは何か」をテーマに、ドメーヌ・マタッサ・セミナーが開催された。
聞き手は WSETディプロマで 「自然派ワイン」の著者 大橋健一氏。
サムはニュージーランド出身。32歳の時、世界最年少でマスターオブ ワイン(※1)に最優秀の成績で合格。世界中のさまざまなワイナリーでコンサルタントを務め、多忙な日々を送りながら、現在英国に在住し、昨年結婚した奥様ともうすぐ生まれてくるベイビーを楽しみにしている。
ドメーヌ・マタッサは、彼が唯一、オーナーのひとりとして2001年に設立した自然派のワイナリー。
設立メンバーは他に、ROUSILLON の最高峰として名高いドメーヌ ゴビー(※2)の醸造責任者を務めた南アフリカ出身のトム ルッブと、ゴビーの妹でルッブの妻であるナタリー・ゴビー。
※1:通称MW、ジャンシス ロビンソン女史もその中のひとり,アジアでは一人も合格していない
※2:赤のトップキュヴェであるMUNTADA ムンタダの2000 年は、ブラインドテイスティングでLe Pin と互角の評価を得た
ドメーヌ・マタッサは(MATASSA)ピレネー山脈の麓、ペルピニヤン空港から山側に向かって約45 分の小さな村カルス(Calce)にあり、この周辺はカタロニア地方と呼ばれている。「マタッサ」とはカタロニア語で、「森」を意味する。エチケットには、3人で立ち上げた 蔵を意味して、3つの木から成る漢字の「森」が象徴として印字されている。
トップキュヴェの「クロ マタッサ」の畑は、その名の通り森に囲まれており、他の畑の影響を受けることは全くないという。南フランスの典型的なスタイルである濃厚でパワフルなイメージを嫌い、自然な味わいでアルコール度数があまり高くない、体にしみ入るように優しく、エレガントなワイン造りを目指している。
日本贔屓のサムは
「日本の繊細な味わいのお料理に、優しい味わいのマタッサはとても相性がいいです」
とコメント。私もからりと揚げた江戸前のてんぷらやお寿司、和食のお出汁と南フランスのワインであるマタッサを合わせてみたいと思った。
「日本人のワインに対する力強いパッションには来日の度に関心しています。その一方で、ボルドーやブルゴーニュだけに関心が高まる傾向があることに疑問を感じています。この2大産地は偉大ではあるが、良いものもあれば駄目なワインもたくさんあります。今日のセミナーを通じてもう少し世界の新しい場所へ目を開いてもらいたいと思います」という挨拶でセミナーが開始された。
昨今ワインの評価は、樽の香りのしっかりしたオーキー(オーク香)で、果実味の濃厚なジャミーなワインを賞賛する傾向がある。また、アルコールとpH(※3)が高く、残糖が多いワイン造りが多い。
サムのワイン哲学はこれに相対する。
「ワインは本来、独自のスタイル、すなわちその土地のテロワール(ワインに現れる葡萄畑の気候・地勢・土壌の個性)を表現しなければいけないと思います。標高が高く、古木が多いルーションの大地は、その土壌と風土がオーガニックのワインを造るのに適しています。オーガニックワインの個性を発揮させるワイン作りと同時に、今飲んで美味しく、エイジングの楽しめるワインでなければいけません」
サムはワイン造りにおいて、pHが低い、つまり酸がきっちりあり、アルコール度も低い
「フレーバー・ライプネス」の方針を強調する。
※3:酸性・アルカリ性の程度を表し、液中の水素イオン指数。pH7が中性。ph7より数が小さければ酸性、大きければアルカリ性。
良いぶどうを収穫することは、それ自体が良いワインを造りだすことになる。そのポイントは、フレーバーとフェノールのタイミング。
一般に、フェノール分(タンニン)の完熟を待つために、遅めの収穫が流行っている。なぜならフェノールはフレーバーより晩く成熟するからだ。
一方マタッサの収穫は早い。夏の最高気温が40度近くにもなる南仏では、完熟は酸不足に直結するだけでなく、ひとつ間違えると、過熱のぶどうを収穫するハメになり、味わいはジャミーというより「干しぶどう」のニュアンスに感じられ、エレガントなスタイルとは全く違うワインになってしまうという。
フェノールを重視するか?フレーバーを重視するか?
世界で最も影響力のあるワイン評論家ロバート・パーカーが好むのは、前者。
フレーバーが丁度良い頃は、まだタンニンは少ない。だが、実際はタンニンの多さを重視するところが多いのである。それはpHも糖分も高いぶどうを収穫することになる。そのようなぶどうで造るワインのアルコール度数推定は平均14.5~15.5度。またpHが高いワインは、再醗酵がいつおこってもおかしくなく、細菌にも犯されやすい危険と隣り合わせにある。
対してサムのワインはアルコール度数が低く、pHも低い3.4~3.5。
どちらが良い悪いではなく、好みの問題だが、サムのワイン造りにおける哲学は興味深い。さらに、彼は自分のワインをA.O.C.=コート・ド・ルーション・ヴィラージュでなくあえてヴァン・ド・ペイにランク付けをしている。
それには3つの理由がある。ひとつは、土地にカタロニア文化が深く根付いているので、フランスではない、カタロニアとしてのワインを知ってもらいたい。2つ目はルーションのA.O.C.にはレベルの低いワインもたくさんみられるので、そういうカテゴリーと一緒にされたくない。最後に、ルーションでは、質のよいヴァン・ド・ペイが増えているためとサムは考える。
試飲アイテムは白3種類と赤2種類。・Cotes Catalane blanc “Marguerite” 2007
ブドウ品種:樹齢100 年近いヴィオニエ、ミュスカ プティグランを各50%。
・Cotes Catalane blanc “Nouge” 2007
ブドウ品種:ミュスカ プティグラン、ミュスカ アレキサンドリアを主体として、ヴィ
オニエとマカベオのブレンド。
・Cotes Catalane blanc “Cuvee Matassa” 2006
樹齢105 年から70 年のGrenache Gris(果皮が灰色のグルナッシュ)が70%,
同じく70 年超のMaccabeu(マカベオ)が30%で構成。
・Cotes Catalane rouge “Romanissa” 2006
ブドウ品種:樹齢50 年のグルナッシュを70%, 110 年のカリニャンを25%, そして25
年のカベルネソーヴィニヨンを5%。
・Cotes Catalane rouge “Cuvee Matassa” 2005
ブドウ品種:樹齢70~100年のカリニャン100%
「大柄で強く人工的、アルコールと残糖が多いワインは料理にはあいません」「オークは単なる容器。風味を出すようでは困ります」
「すべてのぶどう品種は平等と考えます。従って同じ可能性を持っていると思います。一般にはシャルドネやピノ・ノワールは、より高級品種と考えられがちです。しかし、シャルドネなどはどの土地でも育ちやすいという利点があるから重宝されたのであり、むしろ私は土着の品種を大切にしています。ジャーナリストは品種をランク付けしたような表現をしたがりますが、それについても警告を加えたいと思います」
サムのワイン造りにおける厳格な哲学は、ユニークだが商品としてのリスクは大きい。
「私のユニークな哲学をもとにしたワインを扱うことは、インポーターにとってリスキーな仕事でもあります。でも敢えて私はワインが優劣でなく、多様性を持っていることを主張していきたい。それをサポート願えたら嬉しく思います」と最後にまとめた。
若きマスターオブワインが追求する自然派ワイン、その哲学を信じてワインを扱うインポーターたち、このセミナーではそういうワインビジネスの流れについても興味深い観点をかいまみた。
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